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DiDiへの取り締まり、「米国より、香港にこい」ということか?

DiDiへの取り締まり、「米国より、香港にこい」ということか?

DiDiは6月30日、米国での上場式を控えめに行ったが、上場取引からまだ3日しか経っていないのに、中国当局から個人情報の不正収集として重罰を受けた。DiDiがどのような個人情報を不正に収集したのかは、今のところ謎のままであるが、ネット上では、DiDiが米国に上場するために中国の道路情報やユーザーデータを米国に流出させたとの憶測が出て、DiDiは「悪意のあるデマ」と否定した。

米国では2001年に有名なエンロン社の偽装スキャンダルが発生したが、上場企業の不正会計問題を解決するため、厳しいサーベンス法が導入され、会計監査法人の業務を包括的に検査する米公開企業会計監督委員会(PCAOB)が創設された。

米国本土の会計監査法人は基本的にPCAOBの検査を受け入れることができるが、米国外の会計監査法人がPCAOBの検査には抵抗がある。PCAOBは2019年、過去2年間に米国上場の外国企業241社が検査を拒否し、うち137社が中国本土企業、93社が香港企業である。主な原因は、米国の規制当局が中国の会計事務所から米国に上場している企業の会計原稿を入手できないことであり、これは中国の関連法規に抵触するからである。

2009年、中国証券監督管理委員会、国家保密局、国家公文書局は「国外における証券発行と上場の関連秘密保持とファイル管理業務の強化に関する規定」と称する通達を発表し、「国外における証券発行と上場の過程において、関連証券サービスを提供する証券会社・証券サービス機構が国内で作成した原稿などのファイルは国内に保管しなければならない」と要求している。これは米国側の規制と衝突することになる。その後、中米双方の監督管理機関は衝突回避のために何度か意思疎通を行ったが、合意に至らなかった。

2020年4月にラッキンコーヒーの偽装事件が発覚して以降、米国では中国企業に対する規制を強化するだけの理由ができた。

今年3月には、米証券取引委員会(SEC)が外国企業説明責任法の最終修正案を可決した。「外国企業説明責任法」が正式に発効した後、米国に上場する中国企業が上場資格を保持しようとすると、情報開示の要求を満たさなければならず、さもなければ上場資格を取り消される可能性がある。

DiDiにとっては、中国のモビリティ分野でトップの座にあるだけに、以前から上場の準備をしてきたが、ここ数年の数々の事件によって、DiDiの上場への道は険しいものになっている。今回ついにDiDiは米国上場を実現したわけだが、せっかくの上場機会をこの上なく大切にしているはずで、米国側の情報開示要求に対しても、できるだけ満足している可能性はある。もちろん、このような情報開示の最低ラインが国内の関連秘密保持規定に抵触するかどうかも、監督管理部門が認定するしかない。最近、調査を受けているのはDiDiだけではなく、BOSS直招聘、運満満、貨車幇などの数社の中国国内企業で、これらの企業もいずれもサイバーセキュリティ審査の実施を求められ、審査期間中は新規ユーザー登録を一時停止している。

これらの企業はいずれも今年6月に米国で上場しており、BOSS直招聘の上場日は6月11日、運満満と貨車幇の実質支配者である満幇集団の上場日は今年6月22日、DiDiの上場日は6月30日となっている。

現在、中国が米国で上場している中国関連株は約200社あり、米国での上場を予定している企業は他にもある。これらの企業は、将来的には中米双方の二重規制の中で生き残らざるを得なくなる。

今後、中国の規制要件に抵触せずに海外の資本市場で資金調達したい中国企業にとって、香港に上場するという選択肢しか残されていないかもしれない。香港の国際金融センターとしての地位が下がっていることをなんとか食い食い止めようとする中国の気持ちからすると、DiDiへの取り締まりは、要するに「米国より、香港にこい」という象徴的な出来事かもしれない。

廖 静南
(国立)広島大学博士学位を取得。某自動車シンクタンクに勤務、自動車産業研究、マーケティングリサーチ、需要予測などに携わっています。近年、ビッグデータ、情報処理やウェブビジネスなど、幅広い分野でやっています。                                                      

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